安全帯(墜落制止用器具)

安全帯は、労働安全衛生法上では、墜落制止用器具と名称が統一され、規格も改正になりました。

原則フルハーネスを使用することになりましたが、海外では随分前からフルハーネスが当たり前になっていました。
自分の安全は自分で守る意識が強く、違和感なく受け入れられていったそうです。日本は、ようやく追いかけ始めたといったところです。

目次

名称

法改正によって法文の中から、安全帯という言葉は無くなり、「墜落製紙用器具」になりました。

ですが、普段、仕事をする上で「安全帯」を使用していけないわけではありません。にもかかわらず、まるで「安全帯」が使用禁止になったかのような対応を非常に多く見かけます。法律上の表現と実際の名称が異なるものは、多くあります。

会社で作る資料の中に「安全帯」という言葉があると上司から「墜落製紙用器具にしなさい」などと言われて、いちいち修正している会社もあるのではないでしょうか。

一括変換をしてしまえば、一瞬の話なのでたわいもないことですが、なかなか逆らえないという場合は、心の中で「この人、わかっていないな。」と思うしかありません。素直に従いましょう。

安全帯の機能

安全帯には、3つの機能がありま「した」。

一つ目は、墜落を制止する機能。

二つ目は、作業姿勢を維持する機能。

三つめは、行動範囲を制限する機能。

このうち、二つ目の作業姿勢を維持する機能は、上記の改定で「墜落製紙用器具」の機能ではないとされました。

作業姿勢を維持する機能は、柱上作業などで使用するワークポジショニング用安全帯の機能で、腰の左右のどちらかからランヤードを電柱などに回して、自分の反対側のD環にかけることで安全帯に体重を預けて作業を行うものです。実際の作業では、このD環にランヤードをつなぐ際に腰道具の耐荷重の小さいカラビナなどに誤ってかけてしまい墜落してしまうなどの事象も発生しているため、墜落を制止する機能では無いと判断されました。

現在では、2つの機能になっています。

一つ目は、墜落を制止する機能で、もう一つは、行動範囲を制限する機能です。

法律上の名称も墜落制止用器具と定義したため、それとは異なる作業姿勢を維持する機能が別になりました。

行動範囲を制限する機能は、あまり、ピンと来ない方もいるかもしれませんが、例えば床の端付近で作業をする際に端部ギリギリに安全帯のフックを掛けるものを設置した場合、最悪の場合、墜落はしてしまいます。

しかし、安全帯のランヤードの長さ分だけ、端部から離れた位置にフックを掛けられるようにすれば、それ以上端部に接近できないため、墜落そのものの発生を抑制できます。

この機能は、意図的に備えたものではなく、副次的にこういう効果もあったと考えられますが、現場で端部付近に手すり等が設けられない場合は、一つの有効な対策になります。

種類

①着用したときの状態による分類

フルハーネス型:肩、太ももにベルトをかけて、背中もしくは、胸のあたりにランヤードを取り付けるタイプ

胴ベルト型:従来の腰に巻くベルトのタイプ

「フルハーネス」が、わからない方は、テレビなどで橋梁から飛ぶバンジージャンプを思い浮かべてください。飛ぶ人が着けているのがフルハーネスです。テーマパークなどにあるバンジージャンプ施設では、胴ベルトタイプではないものの腰回りと太ももの付け根だけのものを使用しているので、ハーネス型ではありますが、異なるものです。

フルハーネス型は、ランヤードが胸又は背中の上の方に取り付けられるため、

「かかとから胸又は背中の取り付け位置までの高さ」+「ランヤードの長さ」
    +「伸びきったショックアブソーバ」+「着用時のベルトの余裕分の伸び」

が、胴ベルト型よりも長くなります。そのため、6~7m程度の高さ以上でないと地面に激突してしまう可能性があります。足だけが地面に当たる程度の高さの場合は、足の骨折だけで済むとも言えなくはありませんが、その境目は非常にあいまいです。基本的には、一切地面に当たらないためのものなので、使用の目安は、6~7m程度の高さ以上となっています。

この状況を解決するためにメーカー各社は工夫をしており、ランヤードを巻いていて、シートベルトのように早く引っ張られるとロックがかかる製品も出ています。結果的にランヤードの長さが短くなり、さらにショックアブソーバへの衝撃力も低減されるため、落下距離は大幅に短くできます。機構が複雑になるので多少重くなりますが、少しの負担でリスクが大幅に軽減できるのであれば、良いかと思います。

また、建築工事では、概ね5m以上の場合は、フルハーネスを使用するように指導されていますが、それ以下の場合は、胴ベルト型の使用も認められています。ただし、規格が古いものはNGです。

②ショックアブソーバによる分類

第一種:腰より上にフックを掛けての使用を想定したもの

第二種:足元より上にフックを掛けての使用を想定したもの

ショックアブソーバは、墜落時の衝撃を和らげるもので、自由落下の距離によって衝撃荷重が異なるため、フックを取り付ける位置で規格が分かれています。

③使用者の重量による分類

100kgまで:一般的な成人男性を想定したもの

130kgまで:少し大柄の大人を想定したもので、メーカーにもよりますが、多くは、L~LLサイズ

ここで示されている数字は、体重と身に着けている工具類やその他の装備と安全帯そのものの重量の合計です。比較的軽い方でも、工具や装備が多くなる方は、必ず総重量を確認しましょう。万が一の時に衝撃に耐えられず、使用していたにもかかわらず地面まで墜落してしまう可能性があります。

④使用条件による分類

二丁掛:フックの掛け替えの空白のタイミングでの墜落を防止するためのもの

絶縁:感電の恐れがあり、かつ墜落・転落の恐れのある場所での作業をする際のもの

耐薬品:特殊な化学物質等を扱う作業でかつ墜落・転落の恐れのある場所での作業をする際のもの

上記は、あくまでも一部でメーカーにより、特殊な作業を想定した製品があります。メーカーのカタログを確認したり、担当の方に相談をするといろいろ教えてもらえます。

このような分類があり、それぞれの組み合わせで自身の状況に合うものを購入し、使用してください。

パーツの組み合わせ

安全帯は、ハーネス本体、D環、カラビナ、ショックアブソーバ、ランヤード、フックのパーツに分けられます。ハーネス本体とD環はセットで、ショックアブソーバとランヤードとフックもセットです。本体側とランヤード側を直接、または、カラビナで繋いで使用することができます。

パーツはそれぞれで購入することは可能ですが、その場合でも、メーカーは統一しましょう。また、メーカーの保証がパーツごととなり、組み合わせたことによる不具合があっても対象とならない可能性があります。また、適切に使用していたとしても、組み合わせや取り付け方が悪く、万が一の時に安全帯が機能しないことも考えられます。

最近では、作業服などもおしゃれになり、こだわりをお持ちの方も多いかもしれませんが、そのこだわりを自身の安全と引き換えにできるかをよく考えましょう。

新規格品の供給状況(2023年1月の情報)

2022年1月1日の新規格への完全移行しましたが、フルハーネス型への変更は、法改正時に相当話題になったため、早めに入手して使用を開始した方が多くいて、割とスムーズに進みました。

ところが、胴ベルト型は、こちらも新規格に替わることがあまり認識されていなかったため、買い替えがなかなか進みませんでした。2022年1月1日の数か月前から一気に需要が高まったせいで生産が追い付かず、注文から9か月待ちという異常な状態に陥っていました。私も、1月に注文して手元に届いたのは、8月のお盆でした。今、所属している会社でも、同じ時期に注文しましたが、今月ようやく納品されるという連絡が来たところです。

気になってネットで注文できるサイトをいろいろ調べてみましたが、一時期のような、すべて納期が見通せないような状況は脱していて、ものによっては、一定程度の在庫があるような状態のようです。

「色が~」とか、「バックルが~」とえり好みをしなければ、すぐに入手できるようです。

耐用年数(使用可能な期間)

安全帯の耐用年数は、法律では決められていません。現状は、各メーカーが参加している日本安全帯研究会が定めた自主基準が目安とされています。

その基準は、パーツごとに2年又は、3年としていますが、上記の通り、バラバラで管理をすることは、不測の事態を招きかねませんので、概ね2年ごとに交換することをお勧めします。

この2年(又は3年)は、いつがスタートかというと食品ではないので、製造からではなく、使用開始からとなっています。ただ、10年も20年もの間、使用をしておらず、デッドストック状態のものが、使えるかというとお勧めできません。世の中のほとんどの物は、出来てから時間の経過とともに何らかの変化をしていきます。時間が経てば経つほど、丈夫になるものは、あまりないと考えてください。安全帯も例にもれず劣化は進行します。ベルトやランヤード、ショックアブソーバ、その他樹脂製のパーツは、金属類よりも早く劣化することが考えられます。金属類も良好な環境であれば、比較的劣化の速度は緩やかですが、いったん腐食しはじめると相当早くなります。明確に何年という基準はどこにもありませんが、旧規格品に関して、7年程度としている情報もネット上にありました。購入してからあまり時間が経っているような場合は、あきらめて新品を購入しましょう。

上記の耐用年数は、あくまでも劣化が進行しておらず、各パーツを点検して問題がない場合を想定しています。激務で劣化の進行が激しい場合は、もっと短くなりますので、日々の使用前の点検を行うようにしましょう。

特別教育の受講

作業する環境によっては、作業者にフルハーネスに関する特別教育をしないといけません。

いろいろな方と話をしているとフルハーネスを使用するときは、特別教育を必ず受けなくてはいけないと勘違いをしているケースが多くあります。あくまでも、安全な作業床を確保できない環境で安全帯を使用して作業を行う人が対象です。

具体的には、次の通りです。

建築鉄骨の組み立て解体作業をする方々

電柱などの柱上で作業をする方々

戸建て住宅の傾斜した屋根や小屋組みの作業をする方々

足場の組み立て解体作業をする方々

それ以外の方は、何らかの事情で建設現場の足場に上らなくてはいけなくなった場合などでも、作業床がしっかり設けられていれば、特別教育を受けなくても構いません。

普通に生活をしていると多くの方がフルハーネス型安全帯は着用したことが無いと思いますので、こういうものかと理解するために受講するのは良いかと思います。カリキュラムの中に実技があり、吊り下げ(ぶら下がり)体験をさせてくれる講習機関もありますので、お金と時間に余裕のある方は、ぜひ受講してみてください。

墜落、地面への激突を免れた後でも

原則的にフルハーネス型の使用が義務付けられた背景には、旧規格の胴ベルト型安全帯では、墜落した際にフックを掛けて地面への激突を免れた後でも死亡するケースがありました。墜落した際に腹部に強い衝撃力が働き、内臓を損傷し、救助された後でも死亡することがあります。また、損傷を免れたとしても、今度は、墜落から救助までの時間が長くなると腹部が圧迫されることで全身の血流が悪くなり、脳に十分な酸素が送られず、死に至ることもあります。

こう書いてしまうと、フルハーネス型を使用した場合は、絶対に安全かのように見えてしまいますが、実は、フルハーネス型でも、死亡してしまうケースがあります。それは、脳の酸素不足が原因です。フルハーネス型を使用することで、腹部の圧迫は避けられますが、鼠径部(足の付け根)は、強く圧迫を受け続けます。それを避けるためには、墜落から救助までの時間を可能な限り短くしなくてはいけません。

しかしながら、実際に落ちてみないと救助の時間を短くできるかどうかなんてわかりません。日ごろから救助訓練をしていたとしても、不測の事態は起きるものです。この状況は防ぎようが無いのでしょうか。

工事等以外にフルハーネスを使う場面がはあります。それは、登山(ロッククライミング)です。ロープや金具を駆使して崖を上るあれです。

工事以上に墜落のリスクがあり、なおかつ、落ちれば救助までの時間は長くなってしまいます。そのため、何重にも落ちないための工夫がされています。さらに落ちた場合の上記のようなリスクも想定しています。足掛け補助具(ダイニーマスリング)をあらかじめ安全帯に用意しておき、落下が落ち着いたら、伸ばして、足の裏をひっかけて鼠径部(足の付け根)への圧迫を足の裏に分散させます。足の裏は、普段から(人によってはかなり強い)圧力を受けているため、あまり影響がなく、救助までに時間稼ぎには有効です。金額もあまり高いものではなく、各メーカーから出ているので、購入時にオプションのつもりで購入して万が一に備えましょう。

点検とメンテナンスと保管

毎日使う道具は、扱いが雑になることがあります。その道具が身近になり過ぎて、ありがたさを忘れてしまうのでしょう。どこかで聞いたことある話です。

ただ、命を預ける道具ですので、しっかり点検とメンテナンスをすべきだと思います。嫌みで「安全帯は、現場へのパスポート」と言われたりします。ただ、持っていれば良いという意識が芽生えるのはこういった日常からかもしれません。

(なかなか無いと思いますが、)自分が、バンジージャンプをしなくてはいけない状況になった時に装着するフルハーネスが、点検もメンテナンスもされていないと知ったら、烈火のごとく怒っても不思議ではありませんよね。

現場は、落ちないようにいろいろ努力をしている所なので、バンジージャンプで例えるのは、どうかとも思いますが、どれだけ、対策をしていても、「万が一」は消すことができません。そういう意味で、道具に関しても準備が大切です。

毎日、装着前にベルト、ランヤードの劣化はないか、フックやバックルにゆがみはないか、ランヤードの接続部に異常はないかなど点検を行うようにしましょう。

点検、メンテナンス、保管の方法は、購入するとついてくる取扱説明書にしっかり書いてあります。

読まずに捨てていませんか?

命も捨てることになるかもしれませんのでしっかり読むようにしましょう。

毎日、点検したり、メンテナンスしたりというのは、今、そういう習慣が無い方は、最初は、すごく面倒かもしれません。ただ、人は、習慣にしたいことを数か月から半年繰り返し行うと完全に習慣化するそうです。むしろ、点検しない方が気持ち悪いというような状態になれば、買い替えてもしっかり点検、メンテナンスを継続できると思います。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次